自動化の果てに自我は存在し得るのか?円城塔の短編『リスを実装する』
ふがしです。
一年に平均50冊くらいしか本を読まない僕は、大体決まった好きな作家さんの新作を追いかけて読んでいるのですが、先日、大好きな円城塔さんの新作まだ出ないのかなーと検索をしていたら、なんとkindle singleで新作の短編『リスを実装する』が発表されていたではありませんか!
っちゅーわけで、早速ポチってみました。
円城塔さんとは――
円城塔(えんじょう とう)
北海道札幌市生まれ。2007年、『オブ・ザ・ベースボール』で第104回文學界新人賞、2010年、『烏有此譚』で第32回野間文芸新人賞、2011年、第3回早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞、2012年、『道化師の蝶』で第146回芥川龍之介賞受賞。
2014年、”Self-Reference ENGINE” で Philip K. Dick Award, special citation 受賞。
といった感じで、芥川賞をもらったときには審査員だった石太郎が「わけわかんないからってありがたがってんじゃねえぞクソが」と、激しく円城さんや他審査員のことをdisったことで有名ですが、まあ実際、わりとわけわかんない小説を沢山書いている方ですね。あ、僕視点でです。
円城さんの魅力は、この「わりとわけわかんない」ことなのだと思うのです。畳み掛けるようにわけのわからない雰囲気の濁流の中に、自分自身を浮かべて漂うのを楽しむのが、正しい円城さんの楽しみかただと思うのです。
そんな円城さんの新作「リスを実装する」のあらすじは、というと――
画面の中に広がる森を走り回るリスを観察する一人の男。男は容赦なく自動化のすすむ社会に生まれ、様々なものを自動化し、自動化をすすめることで仕事を失い続けてきた。男はリスを観察しており、読者は男を観察している。男はリスの住む世界を想像する。まるで読者が小説の登場人物の暮らす世界を想像するようにして。
という感じ。他の円城さんの作品からすると、わりと普通なイメージ。(あくまであらすじが)
そもそも18ページしかない小品なので、このあらすじでもって、すべてのすじが露にされてしまっているのですが。
大筋は本当に上記のあらすじの通りなのですが、この「リス」は、あくまで文字ベースのログでしかないのです。主人公である男は、ただひたすら画面の中の「木に登った」や「木の実を埋めた」といった文字列を追いながら、ランダムに動きまわるリスを観察しているのです。
男はさまざまな物が自動化されていく世界の中に暮らしていて、掃除夫の仕事を掃除ロボットに奪われ、トラック運転手の仕事を自動運転プログラムに奪われ、トラック自動配送プログラムを監視する仕事をトラック自動配送プログラムを自動監視するプログラムに奪われます。
そういった、自動化の波に自身の仕事を奪われていく人生の過程の中で、男はリスを眺めています。この先の未来においても男は自動化に仕事を奪われていくことが語られますが、小説上フォーカスが置かれている現状においては、男はリスを眺め、リスが生き生きと動き回っているさまを想像しているのです。
まあ、そういう小説です。
円城さんの小説の中では、とても理解しやすい作品だと思います。
あと、作品のイメージに合った絵を適当に探してきました。これが男性だったらカンペキにイメージどおりなんですが、残念。
18ページと短い小説なので、円城塔さんの小説を読んだことが無い人がいましたら、是非手にとってみてはいかがでしょうか!(kindleないと駄目だけど)
ちなみに、僕個人が一番好きな円城さんの小説はSelf-Reference ENGINEです。なんかよくわかんないけど切なくて遠大な、途方も無い感じがとてもすきです。最近の映画ですが、インターステラー観たときの感じと、ちょっと似てます。SFってとこしかあってないけど。
―――おわり
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